前田ベンヴォの物販写真が可愛い理由と傾国のティボルトしき / ロミジュリ2021感想

観劇日:5月22日(ダブルキャスト初日)、6月9日(全公演の折り返し地点)

 


前田さんご本人よりも轟洋介をはじめとする彼が演じる男のファンなので、そういう期待と作品に限らずミュージカルを観たくてチケットを確保。この作品、ビジュアル撮影メイキング動画を見れば一目瞭然だが中世の雰囲気にデニムやスタッズなどを最高の塩梅で盛り込んだ衣装が素晴らしい。メイキングでは見られない舞踏会バージョンの衣装も文句のつけようがなく、モンタギュー一味はカモフラージュのために赤基調の装いになり、ジュリエットに関してはデフォルト衣装よりも白地に黒と赤をちりばめた舞踏会のワンピースの方でグッズ展開してほしいぐらいだった。

前田さんはご自身のファンクラブで自分の撮影のおまけを上げており、私はこれをPCの液晶が焼けるんじゃないかと不安になるほど食い入るように何度も見た*1。特にハイキックを繰り出すシーンは「こんなんグランブルーファンタジーSSRキャラ水属性得意武器格闘で実装確定じゃん!!!!!これは上限解放後のイラスト採用待った無し」と大興奮で再生バーの1:20を何度もクリックした。その後も前田ベンヴォは飛んだり跳ねたり風に煽られたり頼りない表情をしてみたりと、色んな写真撮影の様子をピックアップして見せてくれた。私ですら飽きるほど再生したんだから、ご本人のファンはもっと大変なことになっていただろう。

画質は荒いので表情こそ分からなかったが、ファンクラブの映像では蹴り上げた瞬間をカメラが見事に切り取ったことを確認できたので、私は物販に多大なる期待を寄せて会場へ向かった。しかし物販一覧に印刷された前田ベンヴォの写真は、(覚えている限りでは)笑顔の全身ショットと複雑な表情のバストショットだった。後日舞台写真も発売するとのことだったので再度期待したが、「♪きれ、いは、きた~ない~」の陽気な曲を踊っている時のニコニコベンヴォと別シーンの全身ショットだった。何処にも存在しない蹴り上げショットに後ろ髪を引かれつつその場を離れた。この時まだ公演を観ていない私は、前田ベンヴォの写真の理由を見つけられずにいた。

 


メイキング動画では、ベンヴォーリオ・マーキューシオ・ティボルトの3役×2キャストの計6人分がひとつに収まっている。ピンク髪マキュ見てえ……(予定が合わず断念)と見続けた先に突如現れたのが、当ブログでは3rd幸村でお馴染み立石俊樹のティボルトだった。「え……!? ええ!? TOSHIKI!? え!? 美! 何? 国が傾くぞ」 あまりのビジュアルの強さに脳味噌と喉が直結した。歴代キャストを調べると、小池ロミジュリの正統派に近いのはおそらく吉田さんの方で、キャリアや歌唱力*2を加味しても今回の本命ティボルトはそちらだろうとキャスト発表時から踏んでいた。逆にたていしに関しては、幸村以降の活躍はあまり存じ上げないがこれってもしかしなくても大抜擢じゃん!と喜んでもいた。青年館の8列目ぐらいでたていしの美を浴びたことがある私は、えー待って美……ティボルト通り越して美ボルトじゃん観た過ぎるんだけど……と一頻り考えあぐね、とりあえず一度公演を観てから考えようとダブルキャスト初日の会場へ向かった。

物販には裏切られたが、吉田ティボルトの熱情と歌唱力は私を裏切らなかった。今公演でベテラン勢を除いた時の歌うまポジションはこの人に違いない。歌、うめぇ……と拍手をしながら、頭上に浮かぶのは「たていしはこれをどう演じているんだ?」という未練の灯火だった。溢れる雄々しさでキャピュレット夫人の拠り所となったことが想像できる野獣のようなティボルト*3に対し、線の細いたていしはどうやってキャピュレット夫人を虜にしたのだろうか。休憩中にリピーターチケットのQRコードを読み込み、吉田ティボルトの憤懣遣る方ない歌声が脳内にこだまする帰りの電車でティボルトしきの公演日のチケットを買い足した。

吉田ティボルトが憤怒と嘆きなら、ティボルトしきは悲憤と憂愁だった。赤と黒の混ざり合った臙脂の衣装をも己が肌とするような浅黒い吉田ティボルトは、ジュリエットへの報われない思いを歌にして掲げる時も、嘆き悲しむ皮膚の下では身体の芯に宿る怒りに応えて激情の血が迸っていた。白い歯に透き通った瞳、まさしく明眸皓歯のティボルトしきは、乱雑な装いや荒々しさとは裏腹に、ふとした瞬間に憂いを帯びた眼差しで世界を咎める。彼が抱く大人や世の中への悲憤の周りには、力強くも澄んだ歌声に乗って憂愁のヴェールが漂っている。

一年以上前に書いた3rd幸村の記事でも触れたが、私の目はたていしの顔立ちから憂いの色を濃く受け取るらしい。

(前略)自分に挑んだところでどうせ負けるしかない遠山や越前への憐憫や、同情に近い憂いすら抱いているように感じた。たていしがそう意識して表情を作っていたのかは分からないが、というかたていしは恐らく幸村精市として凛々しく佇んでいただけではないかと思っているのだが、ますだともかみながとも違うあの宛転蛾眉の顔立ちは、私の瞳に3rd幸村をそういう風に映した。

テニミュ3rdの幸村精市は「テニスを諦めない」 - つぶやくにはながいこと

今回もそれがよかった。胆力がありながらたおやかなティボルトしきを観に行かなければ吉田ティボルトがいかに逞しく胸板の厚い男であるかを実感することはなかったし、反対に吉田ティボルトが実力を見せつけてくれなければわざわざチケットを買い足してティボルトしきを観に行こうと思うこともなかった。この興行でダブルキャストの良さを一番感じたのが二人のティボルトだった。

 


チケットを買い足したのはティボルトしきのためだけではない。不埒な理由で申し訳ないが、一度目の観劇で乱闘する前田ベンヴォを観て「これってもしかして轟洋介と同じ身体の人が殴る蹴るなどの危害を加えるところを肉眼で、それも割と近い距離で観られるまたとないチャンスなのでは……!?」と思ってしまった私はティボルトしきに押し切られるかたちでチケットを買い足した。幸いにも最初の観劇より前方の席を公式のリピチケで確保でき、二度目の二幕の乱闘の気配に瞳孔が開く。ところが私がその日の前田ベンヴォに感じたのは手加減だった。なんか襟ぐり掴み上げられて苦しそうに「(><;)」って顔してるけどお前それ絶対「フリ」だよな? あんな蹴り*4ができるんだから体捩って反撃できるよな。ビジュアル撮影のハイキックを抜きにしても前田ベンヴォは(戦闘能力的な)強さが隠し切れていない。前田ベンヴォは(物理的に)強い。多分それじゃダメなのだ。

ベンヴォーリオは主要な若者の中で唯一生き残ってしまう。マーキューシオも死に、ロミオもティボルトを刺し、愛するジュリエットの死を知ったロミオは非業の死を遂げてしまう。前田ベンヴォの喪失の表情は、もしや自分が、という謂われのない、わかりようのない恐れも覗かせていた。ベンヴォーリオは強いから生きているのではない。無益な争いの末に生き残されてしまったのだ。マーキューシオ、あるいはティボルトの弔い合戦だと言わんばかりにいきり立つ彼らをたったの一日止めることもできず、最大の友にまで旅立たれてしまったベンヴォーリオに襲いかかるのは壮絶な無力感だ。「昨日までの俺たちは世界治める王だった」、そこから「君が夢に見ていた世界のすべてが今音立てて崩れてゆく」、挙げ句「俺たち」から俺ひとりになる。ヴェローナの荒れ果てた大地を踏みしめる若者の脚は、限りなく頼りない。

――そんな若者が写真の方で勢いよく蹴りをかましていたらどうなる。しかもその蹴りが最高に決まっていたらどうする。惚れる お前……本気になれば喧嘩止められたよな……?ってなるかもしれない。そもそもヴェローナの諍いは彼らの代より前から続いているのでベンヴォーリオ一人でどうこうできるものではないが、しかしこの作品のベンヴォーリオに肉体的な強さは要らないのだ。前田公輝の演じる男が強くて*5カッコよく*6なりがちなばかりに、SSR水属性格闘ベンヴォーリオの写真は封印されてしまった。お願いだから蔵出ししてください。どこに頼めばいいですか?

 

6/11追記:なんとビジュアルブックに載っているとの情報を得たため速攻でポチった。ありがとうございます。舐めるように見ます。

 

 

 

 

 

その他感想など。味方ベンと新里マキュ以外は観ることに成功

 

・テニモンなので初代真田(パリス)と最新幸村の並びに興奮したけど、たていしの顔が大豆ならかねさきの顔のサイズそら豆だった

・くロミオが戦隊の赤なら甲斐ロミオは青、伊原ジュリがピンクなら天翔ジュリは白だけど伊原ジュリは5人戦隊のピンクで天翔ジュリは3人戦隊の紅一点かも。伊原ジュリは強そうなのでキラキラ王子様のくロミオよりも優しくて年上のティボルトしきとくっついた方が長続きしそう

・「法律なんて気にしない」って歌ってるけどティボルトしきは信号守ると思う

・個々の実力で言えば黒羽伊原ペアに軍配が上がるんだろうけど、この二人はそれぞれが強すぎてデュエットのハーモニーに互いの主張、若干の反発を感じた。厳密にはまりおちゃんの声量の大きさに伊原ジュリが合わせようと張り合ってしまったように聞こえた。でも伊原ジュリも充分歌えているのでまりおちゃんはパートナーの声に文字通り耳を傾けつつ、二人とも自分が自分がと重ねた手の上にさらに手を重ねるのではなく、強さはそのままでも指を折り重ねて握り合うような歌が聴きたかった。甲斐天翔ペアは特に天翔さんが初舞台かつ初演技だったからか、歌いながら互いに寄り添う優しさがあった

・ジュリエットも甲乙つけがたい。二人とも観られてよかった。天翔ジュリの世間知らずな無鉄砲さはリボンで結ばれた箱入り娘が故、伊原ジュリはおてんば娘だけどまだ開く前の柔らかなつぼみ。伊原ジュリの泣いた後の表情が本当に泣き腫らしたような目蓋をしていたので防振双眼鏡でしばらく見つめてしまった

・フリートでも一瞬書いたけど、前田さんを一番の目当てに観に行っておきながらミュージカルほぼ初挑戦ということもありそんなに期待してなかった。なお高音が綺麗に出せる男*7が大好きな私は速攻で手の平を返した。低音域はちょっと苦しそうに聞こえたけど得意不得意があるのはしょうがない。得意なところを伸ばして高音バンバン飛ばしてほしい。『狂気の沙汰』の「狂っている」の「る」、多分hiF(高いファ)なんだけど初日よりも公演を重ねた6月の方が伸びも声量も増してて俺はこれを待ってたんだよ……!になった。文字通り「最高」

・ダンスについては一見遜色なく見えるけど止めが甘い。モンタギュー一味がロミオを探してスマホをかざすダンスシーン、前田さんの止めは音楽記号でたとえるならスタッカートのようにすぐ次の動きへ移行するけど、大久保マキュやアンサンブルの止めはそこにテヌートがかかっているので「静止」を用意しているのが明らか

・ベンヴォが自分と同年代の男と一緒に登場するのにティボルトは女侍らせて登場する対比が最高。女の子の服もキャピュレット側はスカートなのにモンタギュー側はパンツスタイルで、全体的に「仲間」色が強いのはモンタギューだなあと

・死さん、小㞍さんは初日だったから控えめだった可能性もあるけど――忍び寄る死――って感じだったのに対して堀内さんの死は途中から「早くお前の命をとってやりてえ~~~~!」って感じで生き生きしてた。死なのに。ロミジュリの登場人物にはないけど人間には「死」への渇望ってあると思うから、あの死さんも私は好きです

・前回の公演当時、フォロワーがスマホ演出に文句を言っていたのを理解した。中世の世界観をぶち壊す突然のスマホ。この世界にカタカナの日本語は要らない

・ばあやのアクスタがあったら一体購入して我が家のシルバニア赤ちゃんズのお守りをさせたかった

*1:私は気に入ったシーンの数秒を数十回と再生する癖があり、実際に友人と映像を見た時もそれをやり5回ほど繰り返した頃合いで「もうよくない?」と呆れられたが個人的には物足りなかった。素敵なシーンは何度見てもよいものである

*2:別作品で拝聴したことがある。作品名は出すな

*3:でもカーテンコールでにっこにこの吉田さんは生き生きしてて可愛かった。絶対いい人

*4:たとえがハイローで申し訳ないが轟よりも佐智雄のそれに似た蹴りをする

*5:轟とか。歩夢も「シャンパングラスより重いモン持ったことねえ」って言ってるけどあの体格の良さでは説得力に欠ける。あんな完璧に寅壱着こなすホストがいてたまるか

*6:個人的には赤ひげシリーズの津川先生を推したい

*7:例:『充電完了』のこせきまる、『常勝立海』のラスサビ高音パートみかた(!)