はじめての宝塚をハイローに捧ぐ / HiGH&LOW THE PREQUELL

観劇日:ムラ楽ライビュ、11月6日昼(JCB貸切公演)、大千秋楽ライビュ

 

8月末の試写会でベールを脱いだザワクロの出来に「いや……映画としては手放しで面白いって褒められるんだけどハイローの既存ファンとして納得できるつくりだったかはまた別の話であり……」と悶々とさせられていたところ、ヅカローの評判がいいというふんわりした情報が耳に入ってきた。かねてから宝塚を観てみたいと思っていた私は、宝塚がハイローをやると知った時に「はじめての宝塚」を自ジャンルとも呼べるハイローで消費してしまってよいのかと逡巡し、その間にヅカローのチケットは完売した。同じく死ぬまでに一度は宝塚と劇団四季をこの目で観たいと言っていた母に「宝塚観に行かない? ハイローなんだけど」と言った時に「ハイローなら別にいいかな……」と言われていなければ、一公演ぐらいは勢いでチケットを工面していたかもしれない。私自身も、「別にハイロー“で”宝塚を観なくてもいいかな……」と思ってしまったのも事実だった。積もりに積もった宝塚への憧れが、思わぬところから差し込んできた宝塚への道を阻んだ。

ハイローのファンではあるので評判がいいならと、はじめての宝塚を映画館で済ませることへの悔しさを滲ませながらもヅカロームラ楽のライビュチケットを取った。過去に遡及してまでオリキャラ出してラブストーリーすなとかif世界線で前日譚すなとか言いたいことはあるけどなんか面白いらしいので……。ヅカロー、もとい宝塚公演全体に言えることなのかもしれないが、固定ファンが多いだけあって純粋な譲渡のみのチケットが少ない。おけぴに並ぶチケットは大半が別日や別公演との交換で、弾を確保した既存ファン同士がぐるぐる巡ってやり取りをしている印象を受けた。ちんたらしていた私にはご縁が無かったということで……と、大人しくライビュに足を運んだ。

元々宝塚への憧れがあった私は、映画館のスクリーンに映る劇場の緞帳に投写されたヅカローのロゴを眺めながら、いつかあれを自分のスマホで写真に撮りたいな、と改めて思った。第二幕のキラキラしたロゴを撮影して観劇報告をするフォロワーを見る度に朝ぼらけのような、しかし確かに感触のある憧れを抱いていたことを思い出した。

スクリーンの向こうで幕が上がり、コブラに扮した宙組のトップスターが前を向く。その瞬間、理解(わか)らせられてしまった。彼女が、否彼が私たちのよく知るコブラだということを。「俺たちはただ、この街を守りたかっただけだ……」 そりゃあ宝塚とは言え私が観に来たのはHiGH&LOWなのだ、あそこにいるのはコブラだしこの後出てくるのもROCKYでスモーキーで日向で村山なんだけど、そうじゃなくて、ガンちゃん以外の肉体を持つ真風コブラも間違いなくコブラなのだということを開始2秒で理解らせられてしまった。ハイローにはあらゆるキャラがいて、私はその中でもコブラに特段の思い入れがある人間ではないが、真風コブラは私の心の中にいるコブラの像の型にすっと入り込んでぴったりと収まってしまった。どういうことだ? 2.5次元舞台のパイオニアたるテニミュのオタクを長年やっている私は、平均的なハイローのオタクよりも肉体を替えながら繰り返し生きるキャラクターの存在に慣れている。ハイローが構想すらされていなかっただろう15年以上前から見てる。でもそれともまた違う、彼もまた最初からコブラであったかのようにそこに立っていたのだ。とんでもねえ……。そして私がドラマS1で一番好きなROCKY、ROCKYのことが好きすぎて自分はROCKYさんから産まれたと思っているのだが(何故ならWhite Rascalsは福祉なので)、芹香さんのROCKYにもまた「抱いて……」という感情になってしまった。

私に「抱いて……」と思わせるということは、芹香ROCKYもまた間違いなくROCKYさんなのである。カッコいい大人の男性、それでいて『時計仕掛けのオレンジ』をモチーフとした不気味さと母なる大地への畏怖のような不気味さ*1を同居させたROCKYが今この瞬間に息をしている、どう足掻いても私は助からないことを察した。助けてくれ。

次から次へと登場するSWORDの面々が、自分たちのテーマソングを歌いながら宝塚の大階段を降りてくる。コロナに罹患して高熱に魘されていた時ですらそんな夢見なかったぞ?という光景が繰り広げられ、舞台上から溢れ落ちそうな勢いで各チームがひしめき合う。これ現地で観たら絶対楽しいやつじゃん……。テニモン(※テニミュのオタク)の私には解る、否知っているのだこの楽しさを。テニスのオタクが宝塚にハマるかはわかんないけどテニモンはヅカローのこと好きになるよ(オタク特有のクソデカ主語)。しかし脳裏に過ぎるは交換希望がMUGENに広がる投稿一覧ページ。あー……これは楽しい……。やっぱり舞台は劇場で観てなんぼだわ……と改めて実感した私は、もし大千秋楽までにヅカローを現地で観ることができなくてもこの先絶対に宝塚を観に行こうとこの時に決意した。ライビュで見てしまったからには、あとは現地へ行くしかない。そして調べた。私は数年前のFNS歌謡祭で見た朝美絢さんの顔がずっと忘れられなかった。

このチケ発を逃さないために数年ぶりに手帳を買った。宝塚の公演が4th氷帝公演と被らなくて本当に良かった(※時期が被ってはいる)。Suicaのペンギン手帳にペンギンの生みの親のサインをもらったら、二番目にこの公演のチケ発のスケジュールを書き込む予定だ。予定を書き込む予定ってなんだ?

 

時たまおけぴを覗いても、ヅカローは相変わらず交換希望の嵐。ヅカロー観劇済みオタクの「ヅカロー色んな人に観てほしい、チケット完売してるけど根気よく探せばたまに譲渡あるし新規優先して譲渡する人もいるから……」みたいなツイートを目にしたが、四六時中インターネットに張り付く訳にもいかず、町で見かけたレストランの「カプリチョーザ」の所為でテーマソングが脳内で止まらなくなってしまい(それも新テニミュのレボライの前に)あああ~~~~~イェイ!!!(助からない)となったりしていた。そんなある日、先のツイートのような譲渡先募集ツイートをたまたま見つけた私はすかさず怪文書をDMで送りつけた。

 

 


ジェシー「神に感謝しろよ?」

 

 

 

 

 

 

 


イマジナリー壇一八「いや誰に感謝すべきってそれはチケット譲ってくれた人にやろ」

 


やや遅い自己紹介

私(すどう)
ハイローでは轟洋介のオタク。White Rascalsは福祉であり自分はROCKYさんから産まれたと思っている。テニモンなので一般人に比べると舞台はまあまあ観る方。死ぬまでに宝塚と劇団四季を観に行きたい。武器は防振双眼鏡(通称「鈍器」)。


気付いたら10年以上羽生結弦のオタク。ハイローはザベバ放映時に見せようとしたら「暴力怖い><」「すーちゃん急にどうしちゃったの><ヤンキーなんてそんな……」と父と揃って嘆いていた。武器は40年近く前にJAC(現JAE)の真田広之千葉真一を見るために買った双眼鏡。千葉真一が亡くなった時はまあまあ凹んでいた。

 

 

とりあえず撮った

母「すーちゃんパンフレット売ってるよ! 1000円!?」
私「1000円!?」
「「安~~~~~い!!!」」

誇張抜きでこのやり取りをした。互いにパンフレットが2000円前後以上する世界で生きているので、パンフがお札1枚で入手できることにえらく感動してしまった。やはり専用劇場を持っているジャンルは違う。2階に上がると映画館のような物販コーナーがあり、しかし異なるのは売っているのがすべて宝塚のグッズということだ。棚の裏手に回るとずらりと並んだブロマイド。欲しい物だけ買えるバラ売りと、すべて揃えたいオタクのためのセットの両種が揃っている。親切設計にまたしても感動しながら、ルサンクとROCKYさんのカードを購入。

 

母「パンフ安いけどこういうところで稼ぐのね……」

 

赤い手袋は諦めてバラの刺繍が入ったミニタオル。ラスカルズの女コーデです

ロビーを堪能しすぎて開演ギリギリで座席に着き、慌てて舞台上公演ロゴの写真を撮る。舞台やフィギュアスケートは一部の興行を除き、会場内は開演前も写真撮影NGなので撮りまくった。テニミュ4thもあのクソデカセットだけでも撮影SNS掲載OKにしていたら、もっと話題にされやすかったろうに。

 

真風コブラ「俺たちはただ、この街を守りたかっただけだ……」

 

ガラス割り 今は亡きザゲ*2 思い出す(オタク川柳)

 

それにしても真風コブラ、現地で見てなお脚が長い。ヒールの靴を履いているのは分かるけれども、それにしたって一般人がヒール履いてもああはならない。宝塚を現地で観て一番最初に思い知らされたのは、股下という格の違いだった。一方その頃、隣の座席では母が芹香ROCKYの顔の小ささを心配していた。私は私で母が公演中に睡眠ぶちかますのではないかと心配していた。母はヅカローの前日に羽生結弦の初ソロアイスショーのライビュに行き、さらにその前日には神奈川の現地入りしていたので実質3日連続観劇である。それに母は仕事でお疲れなので、いくらフィギュアだろうが推しアーティストの公演だろうが興味が途切れるとすぐに寝る。身体は正直なので寝たくなくても寝る。終演後に顔を見合わせて「どうだった?」と聞いた後、「寝た?」と訊くと「寝てないよ! 面白かったもん」と返ってきたので本当によかった。母が眠らなかったことによっても宝塚の面白さが証明された。

 

実際に宝塚を、「タカラジェンヌ」を見て面白いと感じたのが、トップ娘役が必ずしもベルばら作画のロイヤルプリンセスとは限らないこと、そして達磨の左京や苦邪組の朱雀のような肉感のあるジェンヌもいるという発見だった。潤花さん演じるヒロインのカナはとても快活で最高の女なので俺と付き合ってほしい、その印象は二幕のカプリチョーザでも変わらなかった。La pioggiaのメロディに乗せて「♪信じちゃダメナポリ男」と伊達男への忠告を自分に言い聞かせるように歌い、しかしその後に大勢とダンスする彼女はとても楽しそうに踊る。演技じゃなくて本当に心から、今この瞬間の舞台を楽しんでいるように生き生きとした表情で動く。これまで私の中にあった「宝塚の娘役」のイメージは小ぶりな淡い色のバラ、あるいはトップスターという大輪のバラの周りを慎ましやかに飾るかすみ草だった。しかし彼女はバラかもしれないが、決してかすみ草ではなかった。むしろバラのように周りに照らされるのではなく、自分から明るさや眩しさを振りまく向日葵だと感じた。こういうタイプの娘役は時々現れるのか、それとも彼女がやや特異なのかは分からない。ただ、宙組トップ娘役の潤花さんの目映い笑顔は、私の中にあった娘役のイメージを払拭するのに十分すぎるほど輝いていた。

 

 


宝塚はこれまでも、漫画などのビジュアルを持つ作品を「原作」として舞台化してきた。著名なものではベルばら、近年ではるろ剣シティハンターといった、必ずしも「宝塚」のパブリックイメージに近いとは限らない作品もある。その中でも今回のHiGH&LOWは、原作がドラマや映画からなる実写作品であり、生身の人間が演じるところを原作ファンの我々は既に知っている。知っているどころかそれがオリジナルであり(ROCKYさんもS1で「俺がオリジナルだ」と仰っているので)、誰にも覆せない唯一無二の存在だ。しかし私が舞台に立つ芹香ROCKYの背中を観た時に湧き上がった感情は、「私の知ってるROCKYさんだ」という感動だった。ザラ*3よりも後にハイローのファンになった私は当然ROCKYさんを生で観たことはないし、彼を演じた黒木さんにお会いしたこともない。画面やスクリーンの中でしか会えなかったROCKYが確かに今ここに居る。宝塚が、芹香斗亜さんが私をROCKYさんと会わせてくれた。でもWHITEOUTを自分で歌うROCKYさんはやっぱり私が見た走馬灯か何かだったのでは……?(錯乱)

 

2.5次元舞台を黎明期から知る私にとって、「実写化」や「舞台化」の際に重んじられるべきは役柄(キャラクター)の方であり、配役は話題性よりもどれだけその役(キャラ)に合った、あるいは近いものを持っているかで決めることが「原作」への最大のリスペクトだと考えている。いくら素晴らしい役者を連れてこようが埋められない溝はあるのだと、最近もとある2.5次元舞台の主人公の配役に強く感じさせられた。

宝塚のキャスティングは私の考えからは離れている。演目と五つの組との摺り合わせはあるかもしれないが、おそらく一度演目が決まれば主人公はトップスターが演じるし、彼と結ばれるヒロインもトップ娘役が毎回スライドするかの如く宛がわれる。二番手は二番スターが、三番手は……と、配役は役柄ではなくタカラジェンヌの実力で決まる。だから宙組のハイローは真風さんがコブラだし、芹香さんがROCKYだ。それなのに私は真風コブラを一目見て「コブラだ」と度肝を抜かれたし、黒木さんの芸能界引退により一生会えないと思っていたROCKYさんの後ろ姿に涙を拭わずにはいられなかった。きっと宝塚をよく知る人なら、もっとコブラやROCKYや他のキャラクター、さらにはハイローに相応しいジェンヌが思いつくのだろう。でも初めて宝塚を観た私はスターの実力を見せつけられすっかり関心しきってしまい、特に芹香さんには「ROCKYをありがとう……」と感謝の念すら抱いている。

 

 


母のヅカロー感想

・「やっとハイローがどんな話なのかとか組み分け(SWORD)が解った、あんた轟くんと(鬼邪)高校の話ししかしないんだもん」(ごめん)
・次から次へとイケメンが、右を見ても左を見てもイケメンがって思うけどこの人たち全員女性なのにすごい、立ち居振る舞いとか肩幅(!?)が男性のそれ
・貧民街(※無名街)の闇医者、なんかブラックジャック的なあれなのかなと思ったらただのなんでもない藪医者だった
・この世界救急車ある……?って思ってたら最後に救急車の存在出てきたから安心した
後ろの席の人も私と同じこと話してるよ(※マジでした)
・ヅカローでSWORDを理解した母の脳内が村山以外全員宝塚SWORDだと考えると面白いな(母は轟とその上の山田裕貴だけ把握してる)

 

 


母「カプリチョーザ!!の前に付いてるファッシーノ・モストラーレって何……?」
私「The Imperial Presence的な……?*4

 

「(一幕のヅカローの記憶が)トぶぞ」と評判のカプリチョーザ!!を目撃した母は、ライビュでそれを見た時の私同様やはり呆然としていた。「♪ナポリ~~~ナポリナポリ~」「♪フィレンツェ~花の都フィレンツェ~」と宙組が考える(?)イタリアの概念(?)を次から次へと、わんこそばもびっくりの速度と質量で目に耳に頭に詰め込まれ、見終わった後には「カプリチョーザ……Yeah!!」しか言えなくなっていた。「宝塚のレビューっていつもあんな感じ(概念詰め込みセット)なの?」と訊かれたので公式YouTubeを覗いたところ、どうやらそうらしい。

youtu.be

「一緒に踊りましょう!」ってこれもしかしてシャカリキ・ファイト・ブンブン!? お菓子モチーフといいペンライト振って踊れる曲目といい、デリシューは私にぶっ刺さりすぎた。カプリチョーザ!!も大層楽しくて、その中に歌って踊ってする贔屓がいれば尚のこと楽しかろうと、しかし今度自分でチケ取りに挑もうとしている公演はミュージカルのみの公演だったので少し、否割とがっかりしてしまった。朝美絢さんがキメッキメのウィンクするところ、観たすぎるだろ……。

 

 


帰りに東京宝塚劇場のロビーの階段を降りながら、母が「これでいくら?」と訊ねてきた。「9500円+手数料……」「安……」 私もテニミュを中心に時々舞台を観る人間ではあるものの、母のフィギュアスケート1枚20000円前後のチケ代に比べればそれらのチケ代なんて可愛いものである。「これだったら何回か観てもいいかなってなるけどそれが沼への入り口なのよね……もうこの辺にしとこ……死ぬまでに観たい宝塚も観たし」

 

「「カナの死ぬまでにやりたいことリスト!!!wwwww」」

 

次は劇団四季を観に行こうと母子で笑いながら、劇場を後にした。

*1:この感想がどこかしらズレていることは重々承知している

*2:ハイローのスマホゲー。HiGH&LOW THE GAME

*3:HiGH&LOW THE LIVE。これもなかなか高熱に魘されたオタクが布団の中で汗をかきながら見る夢

*4:テニミュの1stまであった公演別副題。これは全氷